冬季出産

一般的に春季に発情し夏から初秋に出産するパンダですが、
季節外の冬季に出産する事例も。
そんな冬季出産を観察し、繁殖研究に役立てています。

ジャイアントパンダは一般的に春季に発情し夏から初秋に出産する動物です。 飼育下では6月~9月の出産が全体の92%をしめ、冬季の出産は稀です。飼育下での冬季(11~12月)の出産は7例認められ、うち4例(11月1例、12月3例)が当パークでの事例となっています。(図1)

図1.月別出産件数

1.季節外発情

表1に当パークでの繁殖パターンを示します。冬季出産事例は、通常よりやや遅い時期に交配し妊娠期間が長くなって冬季に出産した事例(2020年)と、夏から初秋の季節外に発情・交配し冬季に出産した事例(2001年、2006年、2014年)の2パターンが認められました。

表1.繁殖パターン

◆:交配 ●:出産
A:季節(春季)発情・交配、8月から9月出産
B:通常よりやや遅い時期の交配、妊娠期間が長くなり冬季出産
C:季節外(夏から初秋)発情・交配、冬季出産

発情ステージ毎の発情兆候発現時期を季節発情(7例)と季節外発情(3例)で比較しました(表2)。オスの発情前期の発現時期に注目すると、季節発情の場合はメスよりかなり早く2~3ヶ月前より認められましたが、季節外発情の場合、メスより数日遅れて認められました。つまり、メスの発情兆候に誘起されるようにオスも行動を示すと推測されます。(発情ステージの分類については、こちらのページを参照

表2.季節発情と季節外発情での発情ステージの比較
    件数 発情ステージ
発情前期 発情中期 発情ピーク
メス 季節発情 7 ー20.0±12.2日 ー7.6±1.4日 -0.6±0.8日
季節外発情 3 ー19.3±9.3日 -6.3±1.2日 ー0.3±0.6日
オス 季節発情 7 ー2~3ヶ月 ー6.3±2.0日 ー2.4±1.9日
季節外発情 3 ー14.7±4.2日 ー7.0±4.0日 ー2.0±2.6日
2.冬季出産時の注意事項

冬季出産対策として、室温と湿度の管理は重要です。新生児の体温維持のために室温の管理は必須ですが、母親が育児に専念するために湿度の管理も必要となります。湿度が50%以下になると母親の皮膚が乾燥し掻痒感があるためか、檻で身体を掻く行動が頻繁に認められ、子育てに専念できなくなることがありました。冬季の産室の環境として、室温20℃前後、湿度は60%前後が望ましいと考えられました。(表3)

表3.産室の温度・湿度
  件数 室温(℃) 湿度(%)
夏季出産 6 24.0±1.1 69.9±16.3
冬季出産 3 19.3±1.0 56.0±11.7