低体重児の育成成功例

2018年8月に体重75g・体温31.5℃の低体重、低体温の状態で
パンダの赤ちゃんが誕生。日中双方のスタッフが協力して
赤ちゃんと母親の管理に努め、育成に成功することができました。

2000~2020年までに当パークで生まれた赤ちゃんの体重は平均156.8g。低体重で生まれた事例としては、成都ジャイアントパンダ繁育研究基地で、2006年に51g、2019年には42.8gの赤ちゃんが育った稀な事例がありますが、一般的には出生体重が100g以下の赤ちゃんの死亡率は高いとされています。当パークでは2018年8月に体重75g・体温31.5℃の低体重、低体温の状態で誕生。日中双方のスタッフが協力して赤ちゃん(名前:「彩浜」)と母親「良浜」の管理に努め、育成に成功することができました。

アドベンチャーワールドにおける
出生時の体重一覧
  個体名 出生時体重 母親
2000年 良浜 195g 梅梅
2001年 雄浜 190g
2003年 隆浜 160g
秋浜 106g
2005年 幸浜 180g
2006年 愛浜 196g
明浜 84g
2008年 梅浜 194g 良浜
永浜 116g
2010年 海浜 158g
陽浜 123g
2012年 優浜 167g
2014年 桜浜 181g
桃浜 186g
2016年 結浜 197g
2018年 彩浜 75g
2020年 楓浜 157g
  平均±標準偏差 156.8±40.8g  
彩浜の体重推移
  • ※平均:2000年~2020年に生まれた子の体重(n=17)

  • 「彩浜」の出生直後の体温は31.5℃と低く、自力で母乳を飲むことができず衰弱している状態でした。誕生から約9時間後、「彩浜」の鳴き声が聞こえなくなったため母親から取り上げ、保育器内で保温。体温33.4℃、呼吸や心拍とも微弱で保育器内への酸素供給、強心剤の注射を行いました。処置1時間ほどで呼吸と心拍が安定し、体温は3時間後に36℃まで回復しました。初期の育成では、「赤ちゃんの授乳量の確保」、「体温の維持」、「母親の精神状態の安定維持」の3点に注意を払いました。

1.授乳量の確保

授乳量の確保と体温の安定のため、授乳する時のみ「良浜」に返し、それ以外の時間は保育器内で保温。出生直後の「彩浜」は乳を吸う力がなかったため、スタッフが搾乳した母乳を注射器で与えました。スタッフは「彩浜」の口を「良浜」の乳首まで誘導して自力での授乳を促し、2日齢で最初の自力での授乳を確認し、7日齢からは全て自力での授乳に移行することができました。6日齢で77gと出生時の体重を越え、その後は平均よりゆるやかではありますが順調に増加していきました。

体重と授乳量の推移

2.体温の維持

出生から約7時間後に、「良浜」と1時間の同居をさせたところ、体温が2.1℃下がったため、その後の同居は極力短時間で行い、授乳時以外は保育器内で保温を行いました。しかし同居時間の長さと体温低下の割合は必ずしも比例するわけではなく、同居中の母親の抱き方に影響されることが分かりました。初期の保育器の設定温度は37.5℃。赤ちゃんの体温や呼吸数に応じて、少しずつ下げていきました。母親と同居させるたびに体温の低下が見られましたが、11日齢ごろからは少しずつ下がり幅が小さくなり、18日齢で体重が300gを超えてからは、1時間程度の同居であれば、35℃台を保てるようになりました。以降は特に大きな問題も見られず、他の赤ちゃんと同様順調に成長を続けました。

3.母親の精神状態の安定の維持

母親「良浜」の精神状態を安定させることも重要でした。2008~2018年までに6回の出産を経験した「良浜」は、赤ちゃんに対する執着心が強く、今回も「彩浜」を戻すとすぐに抱きかかえ授乳姿勢になったり、排泄処理などの世話をしました。しかし、赤ちゃんを取り上げると落ち着きがなくなり、「彩浜」を捜しまわりました。「良浜」を落ち着かせるために、「彩浜」を抱いていない時には産室から別の部屋へ移動させて、室内を暗くし、音が立たないように管理をしました。「彩浜」を長時間離すことにより、育児放棄や泌乳量が減少するなどの懸念もありましたが、「良浜」はしっかりと子育てをしました。