出産初期の親子の飼育管理のためにも、出産日を予測することは重要です。
ジャイアントパンダの妊娠期間は一般的に3~5か月と言われています。当パークの事例でも最短で93日、最長で163日と2か月以上の幅があり、個体によって大きな差があることも認められています。この妊娠期間のばらつきは、パンダが着床遅延※という独特な繁殖メカニズムを持つことに起因しています。
※着床遅延:一部の哺乳類に認められる着床の形式。受精後胚が子宮内で浮遊し、一定条件が整ったのち、着床・胎盤形成をする。パンダを含むクマの仲間や有袋類などに認められる。
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個体別妊娠期間
母親 :梅梅 母親 :良浜 出産年 妊娠期間 出産年 妊娠期間 2000年 103日 2008年 138日 2001年 93日 2010年 136日 2003年 109日 2012年 129日 2005年 139日 2014年 136日 2006年 117日 2016年 136日 2018年 128日 2020年 163日 平均 112日 平均 134日 最短 93日 最短 128日 最長 139日 最長 163日 -
出産推定表
母親 出産年 発現日から出産までの日にち(日) 糞量減少(5kg以下) 尿中プレグナンジオールのピーク 睡眠時間の継続的増加 梅梅 2000年 24 20 26 2001年 21 23 14 2003年 21 22 24 2005年 25 21 25 2006年 22 22 23 平均±標準偏差 22.6±1.8 21.6±1.1 22.4±4.8 良浜 2008年 21 20 31 2010年 23 25 31 2012年 23 27 31 2014年 27 20 29 2016年 22 21 27 2018年 22 23 27 2020年 21 17 23 平均±標準偏差 22.7±2.1 21.9±3.4 28.4±3.0 梅梅・良浜 平均±標準偏差 22.7±1.9 21.8±2.6 25.9±4.8
2010年以降、飼育下のパンダの赤ちゃんの生存率は88%と飛躍的に上がりました。これは、死亡率が高い時期である生後1週間以内の親子の飼育管理技術が確立されたことが要因として考えられます。出産初期の親子の飼育管理のためにも、出産日を予測することは重要です。当パークでは、過去の事例を基に3つの指標に着目して出産日を推定しています。
- ① 糞量の極端な減少(5㎏)
- ② 尿中プレグナンジオール(PDG)のピーク
- ③ 睡眠時間の継続的増加
これらの指標は、「睡眠時間の増加」、「糞量の減少」、そして「尿中プレグナンジオールのピーク」の順番で出現し、「糞量の減少」の出現日が一番バラツキが少なく信頼性が高いと考えられました。当パークでは、上記3つの指標で出産日を推定し、最終的には、メスが落ち着きがなくなる、外陰部の腫脹や舐める行動が認められたら出産直前と判断しています。出産日の予測が可能になることにより、母親の出産環境を整え、赤ちゃんを育成させるための準備を行うことが可能となるのです。