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Safari&Marineオットセイの赤ちゃんが誕生しました!!

2013年12月01日(日)

2013年6月7日、ミナミアフリカオットセイの赤ちゃん(メス)が誕生しました。アドベンチャーワールドでオットセイの赤ちゃんが誕生するのは25年ぶりです。母親は2004年にブリーディングローン(繁殖目的での動物の貸借)で横浜市立よこはま動物園(ズーラシア)からやってきており、父親は25年前にアドベンチャーワールドで生まれました。

●出産に至るまで●
 2012年4月末、2日間にわたって交尾行動が認められました。オットセイの妊娠期間は約1年。スタッフ一同期待に胸を膨らませ見守っていたところ、8月にオスが突然体調を崩し死亡してしまいました。「なんとしても妊娠していてほしい!このオスの子孫を残したい。」とスタッフの気持ちは期待から祈りへと変わりました。
 交尾から8ヶ月後、そろそろ何か妊娠の兆候が表れても良い時期です。エコー検査するもののオットセイの毛の密度が高く、全く映りませんでした。妊娠していれば食欲が旺盛になるはずですが、このメスは食欲にむらがあり体重が増える様子も見受けられませんでした。その上、2013年3月には右前ひれを引きずり始め、体重測定も出来ません。ただ、乳首が目立ち始めたことが唯一の兆候でした。
 交尾から1年、「今年も妊娠していないのではないか」とあきらめムードが漂い始めた時、一人のスタッフが胎動らしきものを確認しました。その頃にはメスの餌の食欲も安定し始め、観察にも力が入ってきました。

●待望の出産と母親の死●
 2013年6月7日17時35分「オットセイの赤ちゃんが、生まれています!!」産室をのぞいたスタッフが大慌てでみんなを集めました。メスの横には真っ黒な赤ちゃんが寄り添い元気に鳴いていました。赤ちゃんが誕生した「6月7日」は死亡した父親の誕生日。まるで、父親の生まれ変わりのようでした。
 無事に出産を終え安心したのもつかの間、次は赤ちゃんがきちんと母乳を飲めるかが問題です。この日は、授乳を確認するために24時間体制で観察を行いました。出産後何度か母親の乳首を探す姿は確認できましたが、前ひれや背中を吸ったりと中々乳首まで行きつきません。また出産前より痛めていた右前ひれに赤ちゃんが触れると、母親が威嚇することもありました。出産翌日の朝、ついに乳首を吸っている姿が確認できました。しかし母乳の量は充分なのか、不安は残ります。その後は授乳行動を頻繁に見ることができ、さらに赤ちゃんの便が濃緑色から黄色に変わり、確実に母乳を飲んでいるのがわかりました。体重は順調に増加し、生後1ヶ月で体重7?を超えるまで大きくなりました。
 しかし、7月中旬から体重が伸び悩み始め、8月には8kgまで何とか増えたものの、明らかに授乳回数も減ってきました。ちょうどこの頃、母親の右前ひれの付け根の腫れがひどくなり、赤ちゃんがお乳を飲むのを嫌がるようになったのです。母親に薬を与えて治療をするのと並行して、赤ちゃんに人工ミルクを与える練習を始めました。ミルクを入れた皿を置いたり、指につけて口にふくませたりと様々な方法を試みました。
 赤ちゃんは一向に人工ミルクを飲む気配がなく、体重も増加しません。魚の切り身なども与えてみますが、興味すら持ちません。しかも母親の前ひれの腫れはさらにひどくなり、授乳どころか母親の採食量さえも減少していきました。
 8月22日、治療を優先させるために赤ちゃんを母親から離し人工哺育に切り替えましたが、翌日残念ながら母親が死亡しました。死因は癌の全身転移によるものでした。母親は癌に侵されながらも子を産み、授乳していたのです。まるで、赤ちゃんが人工哺育に切り替わったところで安心して息を引き取ったかのようでした。

●試行錯誤の人工哺育●
 「必ずこの赤ちゃんを育てる!」と意気込みも新たに人工哺育を始めました。スタッフの中に鰭脚類(ききゃくるい)の人工哺育の経験者は一人もいませんでした。オットセイの母乳の成分を調べ、他の施設の資料を参考にしながら進めていきました。ミルクの種類、濃度、カロリーなどを赤ちゃんの便の状態、動きを観察しながら決めていきます。最初は犬用のミルクを与えていましたが便の状態があまり良くなく、水生哺乳動物用ミルクを急いで準備しました。現在では、脂肪やタンパク質などの成分を考えて、犬用ミルクと水生哺乳動物用ミルクを混ぜたものを与えています。
 ミルクを飲ませるには赤ちゃんを捕まえなければなりませんが、これまで母親に育てられていたため全く人には慣れていません。まず、赤ちゃんをコンテナに入れて体重測定をした後、赤ちゃんを捕まえて、口の中にチューブを入れます。赤ちゃんを捕まえようとコンテナの中に手を入れると、「ガブッ!」。噛まれながらも抱きかかえ、外に連れ出して2人がかりで押さえ込みます。赤ちゃんの怪我も心配ですが、スタッフの怪我も心配でした。そこで怪我防止のために夏にも関わらず雨カッパを上下着用し、中には分厚いアームガード、革手袋の完全防備をして臨みます。給餌の度にカッパの中は汗でビショビショの状態でした。他の水族館の資料では、スタッフが押さえ込むことなく自らチューブを咥えている写真が掲載されています。いつになったら、そんな姿を見ることができるのでしょうか?
 人工哺育を始めて半月がたったころ、いつもどおりコンテナに手を入れても噛まれません。「あれ?」と不思議に思いつつ捕まえてみましたが、あまり抵抗もなく横から軽く押さえる程度でミルクを与えることが出来ました。特に、元気がないわけではありません。赤ちゃんの中でどのような心境の変化があったのかはわかりませんが、この日を境に人の手をあまり怖がらなくなりました。
 生後4ヶ月頃よりミルクだけでなく魚をプールに入れて遊ばせながら、魚を食べる練習を開始しました。生後5ヶ月、体重は11kgまで大きくなりました。親が育てた赤ちゃんの体重の伸び方には及びませんが、少しずつ増えてきています。
スタッフ一同、亡き父親と母親の血を引き継ぐこの命を、大切に育てていきます。                            (高澤 敬一)